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登山 その2

数百mの「最終アタック」と言えど、それには日中いっぱいかかる。
竹内さんと後輩は暗いうちに起きだし、ラーメンを分けて食べ、明るくなると出かけた。
スタッフはおらず、二人の身体のどこかに付けたカメラと録音機で撮影された。
しばらくすると、後輩が遅れ始め、他国の二人に追い抜かれた。
撤退は恥ではないが、追い抜かれるのは屈辱だと、やはり山男から聞いた。
後輩は明らかに高山病の兆候が出ていた。命にかかわる。竹内さんは優しく声をかけた。
「君は引き返せ」
「え?・・・嫌です。俺なら・・・大丈夫です」
「明らかに足が遅くなっている。高山病だ。君は引き返して待っていてくれ。
 ここからは俺一人で行く。でも、下りてくる自信はないから、君は体調を整えて、
 俺が下りてきたら、ここまで迎えに来てくれないか?」
凛とした、しかし、何と優しい声だろう。
まだ20代なのに登れなくなるのは、どれほど悔しいことだろう。竹内さんは精一杯、後輩を気遣ったのだ。
後輩は説得され、フラフラと降りて行く。頭ががくがくと揺れていた。
やはり限界だったのだろうか?それとも・・大泣きしていたのかもしれない・・・
下のカメラが一人登る竹内さんをとらえていたが、やがて見えなくなった。
予定よりずいぶん遅れて無線が入る。
「ただいま頂上に着きました。今から下山します」
しかしすぐに暗くなってきた。ルートを見失えば、すぐに滑落してしまう。
「竹内です。下から私のライトが見えますか?」
「見えます。大きな壁の横です」
「ルートが見えなくなりました。これ以上は危険なので、今日はここでピバーク(野宿)します」
そこは氷点下20度の世界だ。着の身着のままで夜明けを待つというのだ。
5時間?6時間?・・・暗闇の中でじっとマイナス20度に耐えて、夜明けを待つ。
その方が危険なのではないだろうか?いったい・・・どれほどの長さだろう・・・
それでもやがて夜は明け、再び無線が入る。
「途中まで降りてきました。でも、もう限界です。後輩君、迎えに来てください」
後輩は飛び出して行き、先輩を迎え、すがりつくように抱きしめた。
「ありがとう・・・君と・・みんなのおかげで・・帰ってこれたよ・・・」

なんという壮絶さだろう。撮影中にも遭難の危険性は、いたる所にあった。
膨大な準備量と、予定変更ばかりの中での正確な判断力。
知恵と体力の限界ギリギリのところで、14山制覇は達成された。
そこまでの壮絶さにかなわぬとは言え、大学受験にも似たようなところがある。
今3年生は「最終アタック」の準備をしている。
「6時間睡眠」だけはまもらせて、残りの時間はすべて勉強だ。
「行けるところ」へは、誰も行かない。すべて「ギリギリのところ」を受験する。
しかし「最終アタック」だけを真似ても、到底登頂は出来ない。
1年・2年生の時からの「準備の積み重ね」がないと、8000m級には登れない。
竹内さんは言う。
「100%確実に登れる山なら、僕は行こうとしない。
 どれだけ準備しても、登れるかどうかわからない。だからチャレンジしたのです」
“本気の受験”もそういうものであり、その受験は、間もなく始まる。
私は毎年「キャンプでじっと先輩を待つ」後輩の気分だ。

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