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生きなければならないように

昨日高1に、そして今日高2に渡す国語の文章に引き込まれた。
それは長田弘さんの「失われた時代」という、聞いたことも見たこともない本からの抜粋で、
ロシア革命直前のモスクワの貧民街に生きる人々の真実を生き生きと描き出した、
ロシアの作家レオニード・レオーノフの長編「穴熊」という、
これまた聞いたことも読んだこともない本の中の話だ。
その本の中で帽子職人の老人が言う
「お前は自分が生きなければならないように生きるがいい」という言葉が好きだと長田さんは言う。

この帽子屋は、生涯一日に一個の帽子を作り続けて来た。
「俺はもう老いぼれだ、どこへゆくところがあろう?慈恵院へも入れちゃくれねえ・・・
 おら、血も流さなきゃあ、祖国を救いもしなかったからなあ。
 しかも目の奴あ・・畜生め・・針を手に取り上げてみても、針も見えねえ・・糸も見えねえ。
 だからさ、な、若えの、おら役にもたたぬところをいつも無駄に縫ってるんだ。
 ・・・・ただこの手、手だけが俺をだまさねえんだ・・・・・・・」
その帽子屋は「古くなった帽子のように」誰にも知られず、粗末なアパートの隅でひっそりと死んでゆく。

今の日本を見ても、原発・スマホ・AKB・・・人は時代に影響され、時代に押し流されて行く。
人が生きて行くこととはそういうことなのか?と、長田さんは問い続けたようだ。

『ポーランドの小さな町から始めた、失われた時代の、失われた人々の、
 失われた言葉への一人旅を続ける間、いつも私の胸の底にあったのは、
 その無名のロシアの帽子屋の生き方の肖像だった。この帽子屋の生死には、
 生きることを自分に引き受けた人間に特有の自恃(じじ)と孤独が、分かちがたく混じっていた。
 その「自分が生きなければならないように生きる」一個の生き方こそ、私達が今、
 ここに荷担すべき「生きる」という行為の母型なのだと、私には思える』

私もまた「一日に二つの授業」を毎日創り続けて生きている。
それを知るのはわずかな生徒達だけであり、いつか人知れず、ひっそりと終えてゆくのだろう。
塾産業は今や「営業の時代」だ。派手な宣伝で生徒を獲得しようとし、生き延びようとする時代だ。
私にはそれが出来ない。「アナログだ」と言われようと、日に二つの授業を創り続けるだけだ。
しかしそれこそが「支配からのがれた」真の生き方だと、長田さんは言う。

『生きてゆくというのは、生の持つあいまいさ、貧しさ、複雑さを、
 つまり私達の世界には何かしら欠けたものがあるという酸っぱい思いを切り返し、
 切り返して生きて行くことであり、それは、一見どんなに迂遠に見えようと、
 支配することをせずに、しかも支配の思想をこえる途を包み持つひとりの私の生き方を、
 自らの「生きるという手仕事」のうちに貫いていくことだ』

私も歳を取ったせいか、一つ一つの言葉が胸に沁み込んでくる。
はたして・・・高1・高2には、どこまで読み取り、想いを馳せることが出来るだろうか・・・

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こんにちは
私もその文章に惹かれた一人です
2011年度京都大学入学試験問題
国語の第一問の問題文ですよね

私は試験会場でこの文章と出逢いました
もちろんそこでも惹かれたのですが
その後浪人することになり
改めて過去問として
講師の方に教えてもらううちに
そして自分で良い解答を考えるために
何度も何度も読み込むうちに
益々と好きになりました

これは京大の思想そのものだったと
いうことも面白かったのですが、
今の現代人が失いつつある
『生きるということ』への信念
ついてふと気付かされ、考えさせられ
改めて自分はなぜ大学にいくのか等
考えました

深いですよね
予備校によると
この問題の受験生解答率は
かーなーり悪かったようですが…

『穴熊』見つからないのですが
絶版ですかね
『失われた時代』
は古本にあるみたいですけど…

長々とすみません!
なんか共感していらっしゃる方に
めぐりあえて興奮してしまいまして…

他人に惑わされない
真に自由な生き方をしなさい
とこの文章から教わった気がします

では失礼致します

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。
嬉しいですね、若い方がそれほどまでに共感してくださるのは。
私の息子・娘・塾生たちもこの文章には感動し、息子はその生き方を模索しようと、
今1年生としてキャンパスで学んでいます。
この文章に感銘されるあなたのような若者がいれば、日本もまだまだ、捨てたもんではありませんね。

高校1年生です。
素朴な疑問なんですが、高校1年生にやらせるには難しすぎます。
京都大学にでるレベルの文書をこの時期にやらせて、何を理解して欲しいのでしょうか。

Re: タイトルなし

「京大に出る=難しい」ですか?イメージだけで決めつけてませんか?
ちゃんと読んでみましたか?「自分には読めない=難しい」ですか?
文章の難易度だけを言うなら、高校入試で中学生が読むものと変わりありませんよ。
音楽でも美術でも、いいものはいいです。小・中学生はクラシックなど聞きませんか?
美術館へは行かないでしょうか?よい作品と出会うのに「早すぎる」ことはないと思います。
理解には年齢による「その時々の理解」があります。
その時の精一杯の感性でよい作品に出会えばいいと、考えていますよ。
高校生にもなれば「大人の感性」を学び始める時期だとも思っています。
プロフィール

河原

Author:河原
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