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終わらぬ人 ②

どうしてアトリエは閑散としているのだろう?
「後継者は?」の問いに、不機嫌そうに答えた。
「何人も作ろうとした。どれもうまくいかなかった。もう、後継者にしたい奴もいない」
決して偉そうに言っているのではない、私にはよくわかる。
アニメも塾も商売だから、基本的に食うのが難しい。自分がなぜ食えたのかもよくわからない。
そんなものに若者を引っ張り込むのには勇気がいる。
「やりたい」と言う奴の全員が「無理だ、とても食っていけない」というのがわかる。
「こいつはいけそうだ」と思う奴は、さっさとほかの安定した職についてしまう。
もう後継者はいないのだ、宮崎さんにも私にも・・・・
CG短編には「ボロ」という毛虫の物語を選んだ。20年以上も温めていた企画だ。
宮崎さんの下書きを見せ、入念に打ち合わせもし、最初の誕生シーン。
「CGで動きをつけてみました」と、若いCGスタッフが見せに来た。
木にぶら下がった卵が割れ、ボロの大きな目がきょろりと周りを見る。
きれいな絵で滑らかな動きだが、宮崎さんは納得できない。
「なんかおかしい。生まれたばかりだろ?初めて世界を見るわけだろ?
 そんなに“ささっと”振り返れるものかね?もっと鈍くさい動きのはずだろう」
毛虫だから卵が割れたときに1本の毛も飛び出す。コンピュータ計算されたものだ。
「それはそうなんだけど、これ、見てる人には見えないよ。もっとこう・・・」
何度も描きなおさせるうち、とうとう宮崎さんがCGで描き始めた。
「飛び出す毛はこうだろう?これくらいでないと見えないよ」不慣れな手がもどかしそうだ。
それでも納得しない。
「映画の冒頭シーンだろ?もっと感動的でないと・・・いい映画ってのはストーリで決まるんじゃない。
 素晴らしいワンシーンに感動し、素晴らしい作品になるんだ。
 これがうまくいかないと何十年も温めたものが、すべてパーになる」
しかし宮崎さん自身にも、「ではどうすればいいか」はわからない。試行錯誤を繰り返す。
それが「ちがう」ことはすぐわかる。しかしどうすればいいのかは、わからない・・・・
CG作家には絵は描けても、そういうアイデアはない。
何度も描きなおすうちにうつ状態にまで追い込まれる。
名人はすぐに何でもやってしまうと思ってないだろうか?・・・ちがう。
私だって数学を教える名人かのように言われて「誰、それ?」と迷惑に思う。
人と違うとすれば、その試行錯誤を続けることができるということだけだ。
宮崎さんは結局自ら誕生シーンを水の中にした。毛虫なのに。
「夜の魚」という得体のしれない魚を泳がせ、そこでボロは卵を割る。
完成したシーンを見て宮崎さんは、自分が考えたものなのに、
「そうか、こいつはこうやって生まれるんだ」と、あの笑顔で愉快そうに笑った。
わずか数秒の誕生シーンにすら膨大な時間がかかる。
後継者が務まるやつなど・・・とてもいるはずもない。

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