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叱って へたれる

土曜の午前中に補講をしていると、授業もないのにホリカワが顔を見せた。
「昨日のことで話を聞いてください・・・」
前日金曜の理科の授業をホリカワは1時間でやめてしまったのだ。
生徒に40分かかる理科のプリントを渡し、10分ほど他のコピーをしに行った。
戻ってみると一人の生徒が問題もろくに見ず、でたらめに解答をチェックし終わらせ、
暇になったからと消しゴムを切り刻み、欠けらを人に投げて遊んでいたのだ。
ホリカワは初めてブチ切れてしまった。
「お前は・・・何しにここへ来てるんだ?今は入試直前だぞ!
 俺はお前に勉強して“いただこう”なんて思ってないからな。
 勉強は自分でするもんだ!自分で自分の人生を切り開かないといけないんだ。
 お前が入試に落ちようと、人生どうなろうと、俺の知ったこっちゃないからな!
 遊びに来るんだったら、来週からは来るな!」
説教は10分ほど続き、「今日はもう授業しない」と帰ったのだ。
土曜日に現れたホリカワの顔は・・・明らかに寝ていない顔だった。
「ブチ切れて説教してしまったんですが・・・」
「すっきりしないんだろ?」
「全然しません!・・説教・・・こんな取るに足りない人間の僕が、人に説教する・・・
 人に説教することなんか、自分には生涯ないと思ってました。されるばかりだと・・・
 一方的に退学を告げたけれど・・僕の授業が下手で遊ばせたのかも知れないし・・・
 けれど奴の考え方、態度は許せなかったし・・・説教・・・
 自分もたいしたことのない人間のくせして・・・・・」

生徒に説教してすっかりへたれてしまったのはホリカワの方だった。
「心配するな。お前の決断は正しかった。奴は叱られなくてはならない。
 奴の態度が直らなかったら、理科を首にしてもかまわない。
 “立派な人”しか説教出来ないのなら、人を叱れる人間なんていやあしないぜ。
 俺も生徒を怒鳴りつけているけれど、自分に自信なんて、今でもないよ。
 けれど、それでも叱ってやらないといけない時があるんだ。それが教育だ。
 お前のやったことは間違っていない、大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ホリカワも生徒の親も、河原は「確信を持って」「平気で」生徒を叱っていると思ってるんだろうな。
ちがいますよ。ホリカワに負けないくらいに、へたれるんですよ。
誰だって、私だってそんな「嫌なこと」は、したくはないですよ。
けれど、その嫌なことを誰もしなくなって、今の教育は崩壊してるんじゃあないかな?
私はきちんと教育したいから、きちんと生徒を育てたいから、叱る。説教する。
そう思っているから、その後の「へたれ感」にも耐えることが出来る。
その一件の話を横山にすると、横山は手をたたいて喜んだ。そしてしみじみと、
「そりゃあ・・ホリカワ君・・・いい経験をしたなあ・・・」と言った。

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