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うどんのプロフェッショナル ④

親方には独立して店を出している弟子が何人もいる。時々金を払って食べに行く。
独立して3年目の弟子の店でうどんを食べて、親方の表情が曇った。
「うまくない。生地を見せてみろ・・・硬いな。お前が仕込んだのか?」
「いえ・・自分の弟子が仕込みました」
「今日は寒いからな。この時期にはよくあることだ。気がつかなかったのか?」
「・・・つい・・・うっかり・・・」
「打ちとゆでで修正しなかったのか?バカもん、かしてみろ」
親方が打ち、ゆでて、見事なうどんにした。弟子はいつもどおりに打ち、ゆでていたのだ。
「うどんなんて5年も打てば誰でもうまくなりますよ。それこそ香川にはたくさんいます。
 うまくて当然、心を込めるのも当たり前。大事なことは、いつまでそれを持続するかです」
かつて将棋の米長元名人が弟子を取るときに同じことを言っている。不安がる親子に、
「将棋で成功するかどうかに、才能は関係ありません。
 今どれだけ将棋が好きか、そしていつまで好きでいられるか。それだけのことです」
慣れてくると人は鈍感になりやすい。現場監督時代に同じ若い世代が、
「毎日毎日同じ仕事をして、つまらないな。面白くねえ」 というのをよく聞いた。
私もそう思うこともあった。無知で、生意気で、仕事の事をわかろうともしなかったのだ。
初めて道路を舗装したときには感動したが、いつの間にかそれもなくなっていく。
しかし、それは違う。現場はしょっちゅう変わって同じ現場はない。環境も違えば、天気も違う。
その表情が違うから真剣に取り組めば、変化だらけで面白いはずだ。
弟子はついうっかりしたが、親方は見逃さなかった。信念を持続する・・・それこそが残りの15点だ。
塾でも「その場限り」の素晴らしい授業ならいくらでも出来る。しかしそれは何に向けての授業だろう?
その子の10年後、20年後に何かを支えてくれるものだろうか?
その子の中で「持続するもの」を育んでおこうと思えば、自ずと授業内容も違ってくる。
今、親方の店には最後とも言える内弟子がいる。もう11年も店で働いている。
ある日、朝6時出勤なのに、7時になって現れた。寝坊したらしい。
「体調管理は店をやる者の義務で責任だろ!?それも出来ないんじゃあ、帰れ!
 店になんか出なくていい、家に帰って好きなだけ寝ていろ!!」
怒鳴り散らして追い返してしまった。 『これは・・・俺だ』 私はそう思った。
その内弟子も、もう独立しなくてはならない。独立すれば、自分しか頼れない。
その事を親方は伝えたかったのだ。
「あの子は・・元々身体が弱くてね。けれど・・強くならないとね・・・・」
店を終えた後親方は、栄養がつく晩御飯を自ら作り、弟子の部屋へ届けに行った。
「風邪だったのか?でもな、風邪ひいちゃいかんのだぞ。・・・さあ、食べろ」
親方は全部知っていて、だからこそ、強く怒鳴りつけたのだった。
私はこの親方には及ばないが、志は同じだ。そういう教師でありたいと思い続けてきた。
その腕も、厳しさも、優しさも、親方ほどのものが私には足りていない。
それを自分の中に創りたくて、続けているのかもしれない。
世の中にはすごい人がいるもんだ。日本も捨てたもんじゃあないと、心が温まる想いだった。

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