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ボクシング

康太は大学ではテニスサークルだが、今一番はまっているのはボクシング。
以前から日本人選手のタイトルマッチは欠かさず見ていたが、それでは飽き足らず、
インターネットで検索して世界中の名ボクサーのビデオを見るようになった。
メイ・ウエザーやパッキャオなどの「5階級制覇」のチャンピオンにとどまらず、
「期待の村田がいるミドル級は、4団体のチャンピオン全員が史上ナンバーワンと言われる。
 チャンピオンになるのは難しいなあ・・・」
もう立派な「おたく」だ。
「そんなに好きならジムへ行って、練習生でサンドバックでも叩かせてもらえば?」
そう言ってると本当に宇治市のジムを見つけて来て、月に2~3度通うようになった。
トレーナーはライトフライ級の元プロボクサー。かなり勝ち越したがランカーになったかは定かでない。
このトレーナーが「お前、素質あるぞ」などと教え上手で、康太はますますのめり込んだ。
足の裏、親指の付け根の皮がむけている。シューズをつけてこうなるのは、本格的な練習だ。
「プロの選手は全体重をパンチにのせるから、体重制限が必要になるんだ」
そんなプロならではの話も康太にはたまらない。チケットを購入し、これからも通う。
ところで4年近く前、高校入学前のリョウヘイが、たぶん同じジムに通い始めている。
これもたぶん同じトレーナーが「高校で本格的にやるなら、莵道高校へ行くか?」と紹介してくれた。
莵道高校のボクシング部は地域の誰でもが参加できるようになっていて、私立のリョウヘイも参加できた。
顧問はすぐにリョウヘイの素質を見抜き、「塾はやめてボクシングに専念しろ」と迫った。
両親も私も迷いに迷った。その頃のリョウヘイは何をしてもうまくいかず、グレかけてもいた。
私はその子が成長するなら、その場所や道具は何でもいいと思っている。
ただ、私の数学やこの教室ほど、本気で子供を育てようとする道具や場所がほとんどないだけだ。
ここはボクシングに向かわせることにした。
私もリョウヘイをひっぱたきもしたが、他人に散々ぶん殴られるのもよかろう。
根性無しのリョウヘイのことだからすぐに逃げ出す。それから教室に戻ってもいい。そう思った。
ところがリョウヘイは逃げ出さなかった。逃げ出して私なんぞに笑われるのも嫌だったのだろう。
苦しい練習や減量にも耐え、それは確かにリョウヘイを成長させ、インターハイ3位にもなった。
そこまでになるとどの大学からも誘いが来る。けれどそこでも私は迷った。
スポーツ推薦は何かと縛られる。教師になりたいリョウヘイに勉強させてくれるのだろうか?
大学のアマチュアボクシングのことなど、私は何も知らなかった。だから怖かった。
しかし自力で合格するのは難しく、リョウヘイは推薦で立命館大へ進んだ。
今、長崎で国体が行われている。いつの間にかリョウヘイは成年の部の京都代表になっていた。
リョウヘイはベスト8に勝ち残り、準々決勝の相手は去年インターハイで負かされたチャンピオンだ。
日本のホープとされる相手なのに、今度はリョウヘイの勝ち!すごいすごい!!
国体の3位、日本の3位だ。学生では日本で一番強いのかもしれない。
こうなると大学もリョウヘイが授業で練習を抜けても何も言えない。
スポーツってそういうものですよ。強ければ何をしても許される。これで弱ければ、
「勝てないくせに、練習しないで授業へ行くのか」などと、嫌みの一つも言われてしまう。
リョウヘイは人生で今が一番勉強しているそうだ。理想的な大人に成長した。
けれどこれは「例外」と考えた方がいい。
なにしろスポーツとは、チャンピオン以外の99%が脱落する世界だからだ。
私はそういう選手をあらゆるスポーツで見て来た。悲しくなるばかりだった。
リョウヘイがそうならなかったのは本人の頑張りもあったが、両親の存在が大きい。
ボクシングをきちんと「リョウヘイの成長の道具」と捉え、きちんと見守ったからだ。
それでもうまくいかないのがスポーツなのに、例外的にうまくいった。
昨日の夜、母親から国体3位のメールが届いた。
これまでのリョウヘイのしょぼくれた姿や、両親の苦悩が走馬灯のように思い出され、私は安堵の涙があふれた。
おめでとうリョウヘイ。今度は康太とスパーリングして、ボクシングの真髄を見せてやってくれ。

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